カズ様へ
    

     『 いつか・・・


黒曜石の瞳が綺麗だな、それが第一印象だった。
すらりとした肢体、短い黒髪、そして、女のように整った顔立ち。

(こんな綺麗な男の人が、木の葉にいたんだ・・・)

ヒナタは目の前に佇むその少年に思わず見惚れてしまって、彼の差し出した書類に気付けなかった。
ぼんやりと呆けているヒナタに、少年は感情をこぼすことなく暫く待っていたが、いつまでも彼の差し出した
書類に手を出さないヒナタに痺れを切らしたのか、ぱさりと無造作に書類を机に放ると、口元に笑みを浮かべる。
そうして少年は、にっこりと微笑みながら、笑顔とは正反対な言葉を吐き出したのだった。


「・・・きみ、俺に惚れたわけ?その顔で?身の程わきまえなよ。」

「えっ?!」

「ブスで仕事も出来ない女って最悪、ね?そう思わない?あ、ちなみにそれって、きみのことだよ。」


綺麗な人形が突然、ナイフのような鋭くきつい言葉を投げかける。それにヒナタはうろたえてしまった。
少年、サイはそんなヒナタの反応に目を細めて更に微笑んだ。
それにヒナタは益々萎縮してしまい、ただ俯く事しかできなくなってしまう。

(そ、そんなつもりなんて・・・ないのに・・ただ、すごく綺麗だなと思っただけで・・・)

こんな意地悪な少年に見惚れてしまった自分が情けないとヒナタは酷く後悔してしまった。
だが、もう遅い。とにかく彼から書類を受け取ると、早く立ち去ってくれないかと切に願う。
だが、彼は人がまばらなのをいい事に、そこから動こうとしなかった。

「あ。あの、受付は・・・すみましたから・・・もういいですよ?」

おそるおそるヒナタは彼に声をかける。だが、彼、サイは後ろを振り返り、次にヒナタへ視線を戻すと微笑んだ。


「俺の後ろ、誰もいないんだよね。だから、きみと少し話ししたいな。」

「で、でもっ・・・」

「きみみたいな、暗い感じのブスって、木の葉では珍しいから、興味があるんだよ。もうすぐ事務方の
  仕事も終わるだろう?このまま俺とどこかでお茶でもしないか?」

「あ、あのっ・・・わ、わたし、そんなっ」

「真っ赤になっちゃって・・・ブスだけど可愛いね。もしかして処女?」

「なっ・・・」

「遊んでやってもいいよ。きみみたいなブスには一生の思い出になるんじゃない?俺みたいな男と
 寝れただけでも、さ。」

作られた笑み、綺麗だと思ったのは間違いだったとヒナタが、己へと伸ばされた手に慄いていると
突然大きな音が響いた。

ダンッ!

事務方の引き戸が思い切り開けられて、驚いて目をやれば、そこには凄まじい殺気を放つ上忍がいた。


「ネ、ネジ兄さん・・・!!」

「ふうん、あれが、ね。」

サイは、ヒナタへとのばしかけた手を引いて、背後へと視線を向ける。
ヒナタがネジ兄さんと呼んだ上忍は、サイとさして歳の違わぬ美丈夫であったが、圧倒的なチャクラの質からも
彼がかなり優れた忍びであると伝わった。或いは噂以上かもしれない。

(・・・彼もダンゾウ様にとって、いずれ目の上のたんこぶになるというわけか・・)

いずれ・・・。そうサイが思考をめぐらせていると、その男は殺気を隠す事無く彼を睨みつける。
それに、サイは目を細めた。
なんと御しやすい、こんな簡単にこの男の弱点が思いもよらないところでつかめる等思わなかった。

(まさか、こんな女に惚れているなんて、な。それもかなり御執心とみえる。あの、冷静沈着といわれる
 日向ネジがね。日向宗家嫡子に興味があって突付いてみれば、思わぬ収穫だな、これは。)


「・・・おい、そこのお前。ヒナタ様を侮辱するのは許さない。早々に立ち去れ!」

「はいはい、そう怒らないでよ。俺だって、この子が俺に見惚れたりして仕事をおろそかにしなければ
 関わるつもりもなかったんだから。」

一瞬、ネジがサイの言葉に動揺した。その様子にサイは彼が彼女に本気なのだと更に確信する。
その瞬間、獲物が決まった。
いずれ・・・その時がきたら・・・。
サイは横目でヒナタを見詰める。いずれ・・・この女を捕らえて日向ネジを引き込む。

「・・・お前、何を笑っている?!」

「え?何がです?」

「・・・さっきまで、作り笑いだったのに、今一瞬、本気で笑っていただろう?」

(ああ、俺に感情なんてないはずなのに、そう見えたんですか。)

心の中でサイはネジの問いに答えていた。そう、感情なんてない。だが・・・。
目の前の無垢なこの少女に、正直興味があったのは真実。
そして、大義名分からいずれこの少女に関われることも大いにサイを満たしてくれそうで。
知らず、また笑みが口の端に浮かんだ。

「まあ、俺に見惚れない女なんて滅多にいないからね・・。仕方ないのかも。では、これで・・」




いつの間にか、ヒナタを庇うように肩を抱きしめていたネジは、立ち去るサイの背中を睨みながら
彼に禍々しいものを感じていた。

(あいつ・・・何者だ?)

ネジの優れた洞察眼で探ってみたあの男の本性。

(顔が・・・なかった。いや、感情が殆どないと言えばいいのか。)

だが、ほんの一瞬だけ、ちらりと感情とおぼしきものが流れて、それが酷くネジを恐れさせた。
あの禍々しさは、稀にみるほどの性質の悪さ。そうしてそれが、ヒナタと自分に向けられていた事実。
それに、心から嫌な予感がした。
それから、じわりと滲んだ性的なもの。間違いなくあの男はヒナタに欲情をおぼえていた。



(許せない・・)



「ヒナタ様、たとえ一瞬でもあんな男に見惚れるなんて、呆れたものだな!」

怒りの矛先が自然ヒナタへと向けられる。ネジの自尊心も傷付けられた故、仕方のないことだった。

「ご、ごめんなさい、あの、本当に・・お人形のように綺麗だったから・・・変な意味じゃなくて・・・」

困ったように言い訳するヒナタ。真実、彼女の言葉通りなのだろう。だが行き場のない怒りは
そんな事ではおさまりそうにもなかった。
それでなくても、ヒナタは先日ナルトをみて気絶したという失態をおかしたばかりなのだ。
事務方を出て、アカデミーの校舎裏で二人きりになるとネジはヒナタをなじって責めた。

「ヒナタ様、いいか。何度もいうがあなたは俺の婚約者なんだぞ?しかも、それは政略などでなく
 お互いの意志で結んだ縁なんだぞ?わかっているのか?」

「あ、あのっ、も、もちろんです・・・わ、わたしの愛する男の人は・・ネジ兄さんだけですし・・・」

ナルト君は憧れで・・・あの人はただ綺麗だから見てただけで・・・と指をもじもじとさせるヒナタに、
ネジは盛大に溜息をついた。

「とにかく、他の男に誤解されるような仕草はしないで下さい。」

「ご、ごめんなさいっ」

「それから・・・」

と、言いかけてネジは口をつぐんだ。それにヒナタが小首を傾げる。

その可憐であどけない姿に、ネジはまた溜息が零れた。

(あんな危険なやつに目をつけられるなんて・・・しかも処女だと思われるほどにヒナタ様は
 純情で無垢にみえるから、心配なんだ・・・)


お互いの心が通じてすぐに、ネジはヒナタを自分のものにしていた。彼女の気が変わらぬうちにと
焦っていたせいもある。だって、彼女はナルトに心を寄せていたから、それが本物の恋になる前に
そしてナルトが里に帰る前にと、彼は性急に事を進めていた。
だから、ナルトに再会したとき、思わず後ろめたさから複雑な表情を浮かべてしまったし、その自信のなさから
さっきの少年の言動にも心を揺るがされてしまったのだ。

(体を繋げても、心まではつなぎとめられないというのか?あんな男に見惚れるなんて・・・)



俺はヒナタ様一筋だというのに、とネジが悶々としている姿を、オロオロと見詰めていたヒナタであったが。
自分のせいで又、ネジを悩ませてしまったのだと思うと居た堪れなくなってしまう。
だから、内気な彼女には物凄く勇気のいることであったが、最愛のネジのためにと彼女は爪先立ちをして
不機嫌なネジの顔に手を寄せて引き寄せると、その形の良い唇にそっと唇を重ねた。
びくんっ、とネジの体が震えたが、もう必死のヒナタは目をぎゅっと瞑ってひたすら、唇を重ねるだけの
キスをし続ける。

(ごめんなさい、ネジ兄さん。で、でも本当に好きなのはネジ兄さんだけなの・・・し、信じて・・・?)

気持ちが伝わったのか、漸くネジから漂う怒気も消えて、同時にヒナタの腰に腕がまわされ
強く唇をネジから吸われていた。


「・・・こんなものじゃ、足りないが・・・まあ、あなたにしては頑張ったようだから・・許してやる。」


濃厚なキスを交わしたあと、ネジがヒナタを強く抱き締めながらそう呟いた。
その声音はもう怒ってなくて、嬉しそうでさえある。
それに安堵してヒナタはネジの腕の中で小さく微笑んだ。それから、甘えるように彼へと
身を預けて、幸せを噛み締める。


だから、あの少年がいつか、二人に大きな試練と苦しみをもたらすことなど、この時のヒナタには
考えもつかなかったのであった・・・。





☆カズ様リクエストでネジヒナ←サイです。
 何だかなあ、尻切れトンボでごめんなさい。でも、大したことにはならないと思うので 多分、大丈夫ですよ♪
 というか、サイはオロチ側にこの後行っちゃうので先は読めません。(死んじゃうかもしんないし)
 そしてサイってば、自覚してないけど、ヒナタ様に一目ぼれしてるんですよ、このお話の中では。
 一応、そうなんです、わかりづらいですが。で、いずれいつの日か、彼女に関われることに喜びを
 見出しているんですよ、歪んでますね。任務だから興味があるんだ、とか自分に言い聞かせてますが。
 すんません////。カズ様のご期待にそえてないかもですが、これが精一杯です〜お許しをっ!
 
 (2006/4/9UP)
 




                               
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