明希さまリクエスト小説
普段なれないことなんて、するもんじゃない。
日向ネジはこの日、本当にそう思った。
ガンガンと頭に響く痛み、布団から上体を起こしただけで、眩暈がする。
(いくら付き合いとはいえ、やりすぎだったか…)
はあ…と溜息を零して、顔を片手で覆う。すぐには動けそうになかった。
今日が休暇で良かったと心から思う。なれないことは本当にするもんじゃない。
もう今日はずっと横になっていようと決め込んで、再びネジが片肘をついて身を横たえようとした時。
「?!!!」
体も自然、斜めになって横をむいたその先に、信じられない光景が目に飛び込んできた。
「なっ?!」
朦朧としていた意識が一気に醒まされる。ネジは心臓が口から飛び出すくらいの衝撃に布団から
跳ね起きた。そうして、目をむいて口をぱくぱくとさせてしまう。
そう、彼に衝撃を与えたもの。
それは、すやすやと穏やかな寝息をたてて熟睡している従妹の寝姿。
(ど、どうしてヒナタ様がここにいるんだ?!!)
ネジの従妹であり、又つかえるべき宗家のお嬢様であるヒナタ。
普段から奥手といおうか浮いた噂一つない清らかな彼女はネジより一つ年下だ。
そんなヒナタとは普通に従兄妹同士の間柄であって、それ以上でもそれ以下でもなかった。
ネジの秘めた思いは別として。
だが、今はそれどころではなかった。
まさか、まさか、と何度も早口に呟くネジの目の前で、ヒナタがネジの布団に横たわり気持ち良さそうに寝ている。
いや、寝ているだけなら、まだいいのだ。だが、ヒナタの状態が余りにも…。
そうして、ネジは昨夜何があったのかと朧気な記憶を辿りだした。
「今回も大層手柄を立てたそうだな、ネジ。」
ばしっ、と一族の重鎮である男に背中を叩かれる。それに眉を顰めながらもネジは相槌を打った。
ネジが上忍となって、かれこれ5年あまり。Sランクの任務をなんなくこなし、今では里を代表する忍になっている。
その上、木の葉最強の日向一族の中でも、歴代随一の天才。
そんなネジが成人をむかえ、一族は彼の為にわざわざ宴会を開き祝ってくれたのだが。
「ほら、もっと飲まないか!今日から酒が飲めるんだぞ!」
すっかり出来上がった一族のお偉いさんがたに、やれ飲め、そら飲めと酒をつがれる。
正直、酒もたばこも嫌いなネジにとって、拷問であった。
だが、これも男のたしなみだと彼らは勝手な理論で酒を飲ませようとしてくる。
いつものように、きつく言い返して断ればいいのだろうが、今日はそうもいかない。
何故なら宗主であるヒアシまでが、それは上機嫌で酒をすすめるから。
「ヒ、ヒアシ様、本当に俺はもう…」
困惑するネジを他所にヒアシが酔った男たちに混じり、ネジへと酒を注いでくる。
その顔は…紅潮し明らかに酒に酔っていた。
普段厳格なヒアシらしかぬその様子にネジは気をとられてしまう。
だから、気が付けばズルズルと流されるように盃を口に運んで酒を流し込んでいた。
(くっ…なんだか熱くなってきた…)
ネジが酒に酔いはじめ、くらくらとする体を何とか持ちこたえていると。
「ネ、ネジ兄さん、少しこちらへ…いいですか?」
微かによろめきながら視線を下から上へと這い上がらせていけば、其処にはヒナタの姿がある。
穏やかな眼差し、優しい表情。思わずヒナタに見惚れていた。
「あ、あの…少し、お話しが…」
ヒナタに促されて、ヒアシや他の男たちに軽く会釈してから、席を立つ。
控えめなヒナタが、宴会の主役であるネジを皆の前から連れ出すなど、珍しいなとぼんやり思った。
離れの廊下まで来ると、宴会の賑やかな声も大分遠のいて小さく聞こえる。
夏の夜風が気持ちよくネジの頬をかすめていった。
「ネ、ネジ兄さん、あの…お酒、大丈夫ですか?」
「は?」
「あ、あまり…お好きでないようなのに、皆さんにすすめられて…父上まで一緒になって飲ませるから…」
「ああ…ヒナタ様は心配してくれたのですね…ありがとうございます。」
ネジがそう礼を言えば、ヒナタがはにかんだ笑みを浮かべて頬を赤らめる。
…酒のせいか、普段抑制してきた感情が刺激されて、思わずヒナタを抱き締めていた。
「ネジ兄さん?!」
「俺の心配よりご自分の心配をなさったら、どうです?若い娘が男と二人きり…俺はその気になれば
貴女の口を封じて、誰にも悟られる事なく何でも出来るんですよ…」
酔った勢いで、普段のネジからは想像も出来ない言葉を口にした。
それにヒナタの体が小さく震えたので、ああ、怯えさせてしまったなと分かる。
だが酔いで熱くなった体に、ヒナタの震える体が心地よい。自分に比べればひんやり冷たいヒナタの体を
ネジは惑うことなく抱き締めた。そう、酒のせいにして、今しばらくヒナタを抱き締めたら、冗談だと離してやればいい。
そう決めて、ネジは愛するヒナタを吐息まじりに抱き締めほお擦りする。
(もう少し、あともう少しだけ…これは酒のせいなんだと後で謝罪すればヒナタ様は許してくれる…)
ずるい思惑のまま、ネジはヒナタを抱き締めて、幸福感に酔いしれる。
「ネジ兄さん…酔ってるの?」
「ああ…そうみたいだ。」
「じゃあ…私が好きだから…抱き締めたわけじゃ…ないんですね…」
切なげな色を含んだヒナタの言葉に、ネジはクックッと喉を鳴らして低く笑った。
「なんだ、だったらどうだと言うんだ?ナルトが好きなくせに、俺に好かれたいとでも?」
一瞬ヒナタの体が強張って、ネジの胸板に置かれた手がきゅっと強くネジの着物をつかんだ。
ためらうような気配が伝わって、ネジは酔ってまで素直になれない自分のプライドに嫌気がさしていた。
だが、例えヒナタを傷つけようとも駄目と分かっている相手に告白などする勇気はない。
もう頃合かとヒナタの体を解放しようと、ネジが腕の力を緩めた時、思わぬことが起きた。
「ヒナタ様っ?!」
あろうことか、ヒナタがネジへとしがみついてくる。ネジの体に腕をまわして、豊かな胸を押し付けてきた。
その感触に気をとられる間もなく、ネジはヒナタが吐き出した言葉に息を呑んでしまう。
「わ、わたし…ネジ兄さんが…っ…ずっと…本当は…す…好きなんですっ…」
夢か?
ネジはすぐには信じられなくて、ぼうぜんとしてしまった。だが必死に縋りついて震えながらも告白するヒナタは
確かな質感をネジの体に与えてくれて。これは現実なのだとネジの五感に訴える。
だが、彼は素直でなかった。筋金入りの疑り深い性格なのだ。だから試すようなことを口にする。
「…信じられないな…貴女を殺そうとまでした俺を好きだなんて…嘘じゃないのか?」
「う、嘘じゃないよ?…わ、わたし本当に…ネジ兄さんが…」
「では、証拠に俺のいう事何でも聞いてくれるか?」
「う、うん…」
「じゃあ、今日の俺の20歳の誕生日に、貴女が欲しい。それもタダ体をくれるというのでなく…」
「?」
「祝いらしく、女体盛りになって俺を悦ばせてくれたなら…信じてやる。どうだ?」
やはり自分は酔っているのだろう、もう殆ど理性も何もなかった。それに。
(これはやはり夢だ。ヒナタ様が俺なんか好きなはずない。だから何を言ってもかまうもんか。)
「わ、わかりました…ネジ兄さんが…信じてくれるなら…やります…で、でも、その前にっ」
「なんだ?」
「ネジ兄さんは、わたしのこと、どう思っているんですか?」
「好きだ、愛している。4歳の頃から死ぬほど好きで好きで堪らなかった。」
酔いのせいか、告白するまいと思っていたのに口が勝手に動いていた。
だがその瞬間、ヒナタが輝くような微笑を見せたので後悔はなかった。
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